レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加
10.緊急ボタン
築30年はたっているだろうか。
大通りから外れた木造アパートの1LDK。
こんなところに、しかもこの1階に女性が1人暮らしをしているなんて。
「お金持ちのお嬢様は、驚いちゃいますよねー!?」
ドアノブの穴に鍵をさしながら奈都さんそう口にするから、思わず首を横に振った。
部屋の中は思ったりより綺麗だった。
いや、綺麗というより殺風景という表現があっているのかもしれない。
ここは奈都さんのお家で、ギシッと軋む畳の上に、私は正座で座った。
三つ折りにされた布団、ハンガーラックにかけられる洋服、小さなテーブル。
室内は生活必需品のみ。
そんな中、テーブルの上にショルダーバッグに付けられたクマのぬいぐるみがふと目に止まった。
「それ、可愛いですよねぇ?ふふっ、貰ったんですよ、この間。小さなクリスマスプレゼントって、成央から」
「……え、」
「あ、ごめんなさいっ!!婚約者さんの前で失礼ですよね……。不快ですよね?」
奈都さんが眉を下げてクスクスと笑う。
決して高価なものには見えない。けど、2人はこうやって繋がっているんだ。
全く心のこもっていない謝罪の台詞に、悔しくて膝に乗せた拳に力が入った。