レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加




「太央……、あなた、なんで?」

「え、お父さんの顔見に来たんだけどー。志保ちゃん行け行けって言ってたじゃん?」


扉の向こうから入ってきたのは、キョトンとする私服姿の太央だった。



「えー、俺が自分のお父さんのお見舞いに来るのはそんなおかしいのー?」

「だって、あんなに嫌がってたのに……」



「お父さんの最後の顔でも拝んどこーと思ってさー」

「……え?」


太央が来て良かったとホッとしたのは束の間で、この子の台詞に口元がひきつる。



「冗談だよー、志保ちゃん。そんな顔しないで」


クスクスと笑う太央が私の頭に大きな手をぽんと乗せてから、病室の奥へと進んでいく。
おじさまと奈都さんがいるであろうカーテンを開けた。



「あれっ、奈都も来てたのー?えー、志保ちゃんと一緒に?」

「太央くんもお見舞い?凄い偶然だねー!」


会話の雰囲気から、彼女はまだ点滴の管に薬品を入れていないのだろう。
全身の力が抜けて、一気に脱力感に襲われる。



「お、お花持ってきました。ここに置きますね……あっ」

「志保ちゃん、危ないよー」


花瓶を持つ手が震えて、倒れそうになるのを太央が手を出して押さえてくれるから。倒れずにすむけど。



「志保さん、大丈夫ですか?」

「ご、ごめんなさい」


おじさまの方に支線を向けると、「賑やかだなー」とシワの増えた顔で笑っていた。



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