レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加
太央と奈都さんが普通に言葉を交わしているから、彼女がやろうとした事は本気じゃなかったのだと。そう、思いたかったのに。
「志保さん、何で太央くんを呼んだの?」
「え……?」
病院の建物から出てすぐに、奈都さんが瞳を見開いてギラリと目を向けてくるから。彼女が怒っているのが伝わってくる。
「違うよー、奈都。俺が勝手に来たんだよ?」
「私、太央くんはお父さんの事、嫌ってると思ってたんだけど!違うの?」
「うーん、別に今殺らなくても、あと何年かで逝くでしょ?わざわざ、手を汚すことないしー、それに……」
突然、太央が私のハンドバッグを奪い取るから、取り返そうと引っ張った反動で、地面に落ちてしまう。
「太央!ちょっと、何するの……て、え?」
バッグの中身が、固いアスファルトの上に散らばった。
財布に、手帳、化粧ポーチに小さな注射器と白い布に包まれた何か──?
「これ、志保ちゃんの?」
「……ち、違…私こんな物入れて無い」
「じゃー、誰の?」
恐る恐るゆっくりと、奈都さんの方に顔を向ければ俯いていて表情が見えない。けど、肩を震わせて笑っているように感じた。
「奈都が、志保ちゃんのバッグに入れたの?」