レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加



実家に訪ねてくる警察官の任意の質問に、私は何も答えられなかった。
あの日の事はうろ覚えだったし。脳裏に浮かぶ情景があまりに非人情で、私の築き上げてきたモラルとかけ離れていたから、記憶の引き出しを開けたくなかった。


手に残る生暖かいぐにゃりとした感覚。
どんなに手を身体を洗っても、ドロリと(まと)わり付く生温かいリアルな膚触がいつまでも消えてなくならない。私の五感が全てを記憶している。


家の外に立つ知らない記者にも写真を撮られた。どこかに掲載される事は無かったけれど、普段から短気な父親はとても怒っていた。


決定打となったのは、差出人不明の郵便物だった。





「お前はもう出て行け!うちに泥を塗りやがって!黒田くんの息子だけでなく、お前まで育ててやった大人を馬鹿にしやがって!!」


中身はあの子との写真だった。
何で今更?彼女が郵送したのだろうか?まぁ、彼女なら日付け指定ででもやりかねない。

それとも、誰かが──。一瞬、成央さんの顔が思い浮かんだけど、両手で頭を抱えて横に振る。そんなのはどうでもいい。



「二度と、三木の家の門をまたぐな!!」


叩かれた頬は確かに鈍い音を出したのに、痛みも感じない。



自分の意思がない他人に作られた土台は、脆くて壊れやすいもの。グラグラと不安定な足元はこんなにも簡単に崩れ落ちていく──。





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