レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加
「……さ、触らないでっ」
「……え?すみません、具合でも悪いのかな?と思って」
年配の優しそうな女性が、眉を潜めて困惑しているのが分かる。
「……ご、ごめんなさい」
小さな掠れた声で、逃げるように走って自分の部屋に入り込む。扉の鍵を急いで閉めて、その場に座り込んだ。
あんな短い距離なのに、息苦しくて、激しく胸が脈打ちしている。
考えれば、親切心からだと理解出来るものなのに、何でそんな簡単な事も間違えてしまうのだろうか。
外を歩いている人達が、私の瞳にはあの人が笑っているように見えてしまうなんて。
駄目だ。誰かに見られているように感じて、酷く怖い。何処かでいつも誰か見張られていると感じてしまう。
「………もう、疲れた…」
ゆっくりと立ち上がって、ふらふらと歩き出す。
消えて無くなりたかった。
早く、楽になりたかった。
もう、私なんていなくてもいい。
こんな世界に生きている意味なんてない。
存在価値の無い自分を生かしている理由なんて無いから。
キッチンの引き出しを開けて、もう何日も使っていないあるモノに手を伸ばした。