レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加
威圧的な父が嫌いだった。
私の全部を否定する父が大嫌いだった。
「私、幼稚園の先生になりたいです」
「幼稚園教諭なんて子供と遊ぶだけだろう。先生ならまだ学校の先生のがまだマシだ」
逆らう事も出来なかったし、その術も知らない。おかしいと思っても、大人が絶対的存在なのだから従うしかなかった。
「俺は良いと思うけどな、幼稚園の先生の夢」
優しくて穏やかな笑顔。あの時の成央さんの言葉にどれだけ救われただろうか。
「志保ちゃんならなれるよ」
私の欲しい言葉をくれた。認めてくれた。
泣きたいくらいに嬉しかった。
その彼の後ろにいたのは、誰だっけ──?
「そうそう、志保ちゃんはピアノも上手だし。大丈夫、似合うよー」
いつもにニコニコと笑っていた可愛らしい女の人。ふんわりとした少女みたいな人だった。
「ねぇ。志保ちゃんは小さい子、好きなの?」
「……はい」
「私ね、今度、赤ちゃん産まれるのー」
「赤ちゃん……?」
「そう。可愛がってあげてね」
大きく力一杯頷けば、人懐っこい笑顔を向ける女の人が私の手を取って、自分のお腹に手を当てた。
少し膨らんだお腹は、なんだか秘密を教えて貰えたみたいで、不思議で、胸がドキドキした。