レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加
深い眠りの沼底に引きずり込まれていくようだ。
手足が泥沼にはまったように身体が動かすことが出来ないのに、古い記憶が頭の中で夢のように流れていく。
「若いのに……乳癌だって」
「まだ下の子、小さいんでしょ?ねー、かわいそー」
冬の冷たい雨が続いた日。
小さな男の子が、クマのぬいぐるみを抱えていた。
その子は、母親と同じようにニコニコとしていた。人形と遊びながら笑っていた。
周りの大人が、ヒソヒソと話をする中で涙を流すことは無かったけど。
私には、その子が泣いているようにみえた──。
結局、せっかく褒めて貰えたのにピアノもやめさせられ、父親の言う通り教師の道を進んでしまった。
大人になっても、つまらない人生だった。
私は自分の意見も言えないし。
相手に上手に伝える術が分からない。
周りの人が当たり前に出来ている事ができなくて。早く、どこか遠くへ走り出したいのに逃れられない。
自由になりたいのに、何が自由が分からない。
私は親の操り人形のまま、狭い世界の中でつまらないレール上の人生を歩んでいただけ。
離れていく人もいた。
だけど、中には親身になってくれる人もいた。
親切を装って裏切る人もいた。
私なんかに、愛を与えてくれた人もいた──。