レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加



冬の山は想像以上に寒かった。成央さんの車のトランクに入っていったシュラフを広げて、私達にかけてくれた。
けど、地面は固くて冷たいし、体は重ダルくて打った腰部も痛いし。少しでも動くと体がギシギシと悲鳴をあげる。


だけど、すぐ隣にニコニコと私の手を握る太央がいるから。



「……ご、ごめんな…さい」

「……だからー、謝るの悪いクセだってー。あ、また泣いてるー」


「……た、太央。……あ、りがとう」


「……志保ちゃんにお礼言われると、調子狂うんだけどー」


はにかんだように笑う太央がいて、真っ黒な前髪からのぞく瞳は濁ることなく虹彩の中に光が確かに見えた。


澄んだ空気。どこまでも続く夜空の果て。赤い空はどこにも存在していなくて、無数の星が私達を見下ろして輝いている。
この宇宙にどれだけの命があるのだろうか。

ここに存在するだけで、息苦しくて、重たくて、痛くて辛い。何の意味があるのだろうか。


それでも、大きく息を吸って吐く。何度も何度もその繰り返し。




ただ、それだけで、終わると思っていた世界が始まった──。



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