レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加
16.始発





建物から外に出る時は必ずゆっくりと大きな深呼吸をする。自身の心を落ち着かせる為に。
一瞬、赤色が頭に(よぎ)るけれど、恐る恐る顔を上げると空は眩しいほど青色が広がっていた。

最寄りのバス停に向かって歩いているところで、1台の車の窓が開き声をかけられる。



「あれ、志保ちゃん!?久しぶり」

「……成央さん」

「乗ってく?家まで送るよ」


彼の後ろの車がクラクションを鳴らすから、躊躇(ためら)いつつも慌てて助手席に乗り込んだ。



「あの、迎えに来てくれたんですか?」

「偶然だよ」


前方に顔を向けたままの彼は、車を発進させながら穏やかな声を出す。
この柔らかくて優しい雰囲気が大好きだった。それも遠い昔の記憶のように感じる。



「随分と暖かくなってきたよね」

「そうですね」

「その後、どう?」

「はい、大丈夫とは言いきれませんが……」


窓の外に目を向ければ、桜の木が立ち並ぶ道路ち無数の花びらが舞い落ちていくのが目に入るから。もうこんな季節なのだと、ぼんやりとこれまでの出来事を思い出す。

あの時、成央さんが山の中まで追いかけてこなければ私は今ここにいなかっただろうな。



「志保ちゃんの車、フロントガラス駄目にしちゃってごめんね」

「いえ。そんな事より、その、迷惑かけてすみませんでした。でも、まさか…成央さんが太央のスマホのGPSで追ってくるなんて思ってもみませんでした」


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