レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加
え?この人、今なんて──?
一瞬で周囲が凍りついたように体が動かなくなる。
にこにこと向けられる笑顔と台詞が噛み合ってなくて、思考がついていかない。
「志保ちゃーん、奈都ー。イルカのショーはじまるってー」
「本当に!?志保さん早く行きましょう!」
遠くで太央の声が聞こえて、奈都さんが私の手を取った。
白くて細い女性らしい腕なのに、握る力は強くて荒々しいもの。
彼女に恐怖さえ感じるのに、私は何も言えず引かれるまま連れていかれるだけ。
その先には、愛おしい筈の彼が立っていて。
誰に向けられているのだろうか、優しくて穏やかな笑顔に鼻がツンと痛くなった。
「志保ちゃん、席取っておいたよ」
何も言いかえせない、自分の言葉で主張できない。
結局、流されるだけで私の人生には何もなくて。トンネルの向こうに見えたと思った光りも、ただの幻想だったのかもしれない。