レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加
「はぁ、何やってんだよこんな時に」
目の前の彼が右手で前髪をくしゃりと乱して、悩ましげに大きな息を吐いた。
どうしよう、おじさまの身体を事を心配すると同時に罪悪感の波が押し寄せてくる。
「志保ちゃんに連絡なかったかな?……って、ああそうかスマホ見てないのか」
「……すみません」
「それにさ、今の母さん、過保護だろ?」
「はい」
「全く。あいつはいつもマイペースだから。まぁ、よくあることなんだけどね」
確かにあの子の自分勝手さは今に始まったことではない。成央さんが呆れるのも分かる。
「今日は、太央の母親が亡くなった日でもあるから。母さんが余計に心配して」
「……」
そういえば、そんな時期だったかもしれない。
成央さんの母親は離別で、太央の母親は死別。太央が幼稚部の時に亡くなった。
そして3人目の母親は、心配性で過保護な彼等の父親より一回りも年下の女の人。
「じゃぁ、ゆっくり休んでね」
「はい、大丈夫です。おじさまによろしくお伝えください」
成央さんが扉を閉めたのを確認してから、ぱっと後ろを振り返る。
窓の隙がほんの少し開いていて、小さくカーテンが揺れていた。
きっとあの子のことだから、盗み聞きしていたに違いない。
急いでベランダに向かうも、太央の姿は既にいなくなっていて。
「……太央」
私と成央さんの会話を聞いて、家に帰ったのだろうか。
覚醒しきっていない頭がぼんやりする中、重だるかった筈の体は軽くなっていた。