レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加
一瞬、目を見開いて困惑の色を見せた彼が、眉が下げて息を吐く。
「志保ちゃんは俺のこと嫌いなの?」
「……嫌いじゃありません」
唇をギュッと噛み締める。
ここまできて、全ての判断を私に委ねようとするなんてどこまで狡い人なのだろうか。
私が、彼を嫌いになれる筈がないのに。
「少し考えさせて……」
さっきまで私を抱いていた筈の手が、肩にポンと乗せられて。いとも簡単にスルリと通り抜けていくから、ひどい不安に襲われる。
その時、トントンとノックされて扉が開けられる。
「兄さん、志保ちゃん。そろそろ夕飯だってー」
そこには制服姿のままの太央が、腕を組んで立っていた。
「あぁ、分かった。すぐ行くよ」
成央さんが太央の横を通りすぎて、廊下へと出る。そのまま、階段を降りていく音が聞こえた。
「俺の部屋、隣なんだけどー」
「あ……、」
太央はいつ帰ってきて隣の部屋にいたのだろうか。
この子が何を言いたいのかすぐに理解して、気まずい空気が流れる。
「服はシワシワで、髪の毛も乱れてるしさー……て。はぁ、因果応報か。まぁ、夜はヤらないでね」
「……っ、」
流石に会話の内容までは聞こえなかったようで、少しだけほっとした。と同時に、顔を歪ませた太央が傷付いているのが分かった。