君を好きでいたこと



「ねえ、七瀬(ななせ)。本当にそれでいいの?」


朝、HR前のガヤガヤとした教室。
祥平についての延々とわたしの話を聞いてくれた親友のかなでが、不意に真面目な顔でそう聞いてきた。


「うん……。たぶん、もう無理だからさ」


わたしは決めた。
せめて、わたしから別れを切り出そうって。
祥平は優しすぎるくらい優しいから、別れの言葉を言うこともとても辛いはずだ。
だからせめて、それはわたしから言わないと。
考えてみたら告白も最後もわたしからって、わたしばっかり思っているような気がするけれど。
でも、祥平がわたしを好きでいてくれた過去を、疑ってなんかない。


「そっか……」
「もう、大丈夫だから!でもありがとね。朝からこんな話聞かせちゃって」
「気にしないでよ。どれだけあなたたちカップルの話、聞いてきたと思ってるの。わたし以上に祥平先輩と七瀬のこと、わかってる人はいないと思うよ?」


そうだった。
バレンタインの告白もかなでの後押しがあったからだし、初デートの服とか、誕生日プレゼントとか、全部かなでに相談してきた。
色んな人に迷惑をかけて、支えられてきたんだよね。
だけどそれももう終わりなんだ。


「ねえ、これからも親友でいてくれる?」


「当たり前でしょ。何変なこと言ってるの」


呆れたように笑うかなで。


「へへっ……かなで、大好き!」
「あーもう可愛いなぁ……わたしもだよ、七瀬!」


窓際の席で、二人抱きしめ合う。
やっぱりかなでって最高の女の子。


「いや〜熱々だな。ナナカナは」


不意に聞こえた声に振り向くと、ヒューと軽い口笛を吹いたのは、男子のリーダー格・中村祐希(なかむらゆうき)
その後ろでは、何人かのクラスメイトたちがにやにやと笑っている。
ちなみにナナカナというのは、七瀬のナナとかなでのカナをくっつけたコンビ名らしい。


「親友をだいすきで何が悪いのよ!」
「そうそう!」


真っ赤な顔で祐希に食ってかかる奏。
たぶん、それに乗るわたしの顔も、同じくらい真っ赤になってるよね。


そしてまた、お互いを見て笑い会う。
こんな親友がいてよかった。
いつもわたしの恋を見守ってくれたかなで。
そのかなでのことを祐希が気になっているっぽいんだけど、それについてはまだ触れないでおこうか。


ともかく、かなでと居られる今が幸せだからそれでいい。
辛い別れのことばっかり考えてないで、今は笑っていよう。
ここで心から笑いたいって、わたしの中のわたしがそう言ってるから。

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