君を好きでいたこと
とうとう、三年生の昇降口まで来た。
昼休み、かなでに励まされながら勇気を出して送ったメッセージ。
『言いたいことがあるの。放課後、昇降口で会おう』
一応既読はついたけど、来てくれるかは不安だった。
肩掛けカバンの紐をぎゅっと握り、慌ただしく通り過ぎる先輩たちを見送る。
その中の何人かはわたしのことを怪訝そうな目で見ていたけど、それがどうでもいいほどには緊張していた。
「ごめん。待たせた?」
申し訳なさそうにいう祥平の口調は、拍子抜けするくらいいつも通りだった。
だからわたしも、喧嘩なんてしてなかったみたいに言葉を返す。
「大丈夫だよ。来たのは三分前くらいかな」
ほんとは十分前からいたけどね。
そんなやり取りに既視感を感じて、思わずふふと笑いが漏れる。
「どうしたの?」
「ん〜、初デートの時も、わたしが早く来て、同じようなことを聞かれたなあって。祥平は覚えてないかもだけど」
自嘲を含めた笑みをこぼす。
「覚えてるよ。忘れるわけないじゃん」
「え?」
せつなげに瞳の揺れる君。
「あの日は彼氏として七瀬より早くつかなきゃって思ってさ。30分前には着いてたんだよ。なのにその時渡そうとしてたお菓子を家に置いてきたことに気づいて、代わりのものを探してたらもう七瀬はきてた」
そんなことがあったんだ。
わたしはカバンにぶら下がる、くまのキーホルダーをちょこんと触る。
初デートの次の日が誕生日だったわたしに、祥平がプレゼントしてくれたものだ。
どこにでもありそうな……というか、はっきりいって300円ショップにも売ってそうなものだけど、わたしの宝物。
「そうだったんだ。でも、わたしはお菓子よりこれの方が好きかな」
「そう?よかった」
だって、形に残るものだから。
お菓子は食べたらなくなっちゃうけど、この子はいなくならないもんね。
それから、帰りながら色んな話をした。
二人で行った遊園地、最後に乗った観覧車。
別の日には映画を見に行ったし、ちょっと背伸びして代官山のカフェに行ったこともあった。
そのときお互いに何を思っていたのか、どんなことをしていたのか、答え合わせをしていくみたいに言い合った。
「あっ……もうすぐだね」
「そうだな」
だんだんと言葉少なになっていくわたしたち。
気づけばもう、わたしの家の屋根が見えるところまで来ていた。
「ねえ、言ったよね?わたし、祥平に言わなきゃいけないことがあるって」
「……うん」
門の前で深呼吸。
楽しかった帰り道を思い出すと辛いけど、それでもここで言わなきゃ。
「祥平、留学するってホント?」
答えを聞くのが怖い。
それでもしっかりと祥平の目を見つめて、彼の返事を待った。