こんな溺愛,ありですか?
「はいはい。誰」

「みっちゃん! 夏海ちゃんだよ」

「誰それ」



自分の生徒の名前も分からないなんて,辰馬くんは本当に仕方ない人だと思う。

私は呆れながら答えた。



「自分の受け持つ生徒くらい覚えてなよ。花沢って呼んでるでしょ? 名前と名字適当に振り分けて呼んでるから悪いんだよ。どっちかに統一したら?」

「あーあの山宮好き好き星の住民か」



いつそんな星が誕生したのだろうか。



「なにそれ」



言いながら私はそっぽを向いた。

山宮くんの名前に反応したなんて気づかれたくなくて。



「お前……」 「しーちゃん」

「あ」



山宮くん。



「ノート?」



私が聞くと,山宮くんは私にノートを渡す。



「うん。はい,雑用?」

「そう。これ運ぶだけなんだけど」


私は山宮くんにノートの山を掲げて見せた。



「手伝う」



そして私に落とされた言葉に,私は戸惑う。

なんでそこまで……?



「必要ない。大したもの持たせてねぇからな。お前はさっさと帰って寝てろ」



私だって断ろうと思ってたけど,その言い方はないんじゃない?

私は思わず,山宮くんの前で辰馬くんのふくらはぎを蹴飛ばした。

反射に近いものだった。
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