こんな溺愛,ありですか?
しーちゃんに会いたかったから追いかけてきただけ。
俺は他人を傷つけない嘘と,合理的な嘘はついていいと思っている派の人間だ。
俺が言うと,何故かしーちゃんは肩を落として,そのあと顔を赤くした。
俺はそれを見てまた軽く笑う。
俺は,しーちゃんが俺のせいでころころ表情を変えるのを見るのが好きなのかもしれない。
俺は考えながら,さっきからうざったいほどの視線を向けてくる担任に冷たく視線を返した。
その顔は,ひどく不愉快そうにしていて,もとより隠すつもりも無さそうであった。
「わっ分かった。じゃあ早く行こ,辰……いえ,行きますよ先生」
俺は心の中で驚いて,軽く目を見開く。
自然に出たのであろう敬語を取り去った言葉。
辰馬……そう言おうとした?
俺だってクラスメートはもとより,担任の名前くらい知っている。
なにそれ,知り合い?
「はぁ!? ふざけんな…っ」
引きずられながら歩く担任としーちゃんを,俺は茫然と眺める。
何故か俺は,ひどく動揺していた。
「はぁ。あほらし」
そんな事実に目を背けて,俺は下駄箱へと足を向けた。