こんな溺愛,ありですか?
山宮くんはそれだけいうと,ゆっくりと目蓋をおろす。

まるで,報われない恋情でも秘めているような切なさを感じた。

ドラマのワンシーンみたいだ。

息も忘れて山宮くんを見つめる。

すると今度は,山宮くんが先程より長く手首に唇を押し当てた。

その箇所に何故か一瞬チクリとした痛みがはしる。

そして山宮くんは消ゴムを拾うと,何事もなかったかのように座った。

私もそろそろと手を引く。

そこまで,約15秒。

私には,5分以上あったかのように思えた。

手のひらのキスは,手首へのキスは……

頭がぐわんぐわんする。

……余計な知識は,余計なままでいい。

私は強制的に思考を止め,放心した。

誰か見ていないかとハッと後ろを向くと,後ろの2人は仲良く変な絵を書いては笑っていて,なにも気づいてなさそうだった。

その2人は近々付き合うんじゃないかと噂されている2人で,私は心底ほっとした。
< 31 / 96 >

この作品をシェア

pagetop