こんな溺愛,ありですか?
なんとなく辰馬くんに話題をふると,辰馬くんは複雑そうな顔を見せる。



「蚊っつーより,ハエだろ」

「えっハエって刺されたりすんの!?」

「まぁ,刺すやつもいるな。それとは関係ねぇけど……静香は知らなくていい」

「そう?」

「あぁ」



そっか。と私も返して,じゃあねと言う。



「なんか急いでんの?」

「山宮くんが待ってる」

「……チッ,たく,いいか? 早足で帰れ,真っ直ぐな。とにかく気を付けろ」



だから,なんでそんなに過保護なの。

お母さんなの? そうなの?



「分かってるよ!」



あははと笑うと,私は背を向けて走った。



「いーや,お前は分かってねぇよ。なんにも」



そんな切ない男の声は,届かない。
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