こんな溺愛,ありですか?
少しだけ久しぶりの,ガラッとした低い声。

すっかり大人なその声は,いつからだっけと考えながら,私は振り向いた。



辰馬くん(せんせい)



目を丸くして見つめると,辰馬くんは地面におりて,一歩一歩近づいてくる。



「どうしたの?」



私の目の前に来たまま,ただ静香に見つめられて。

私はそう小首をかしげた。



「あっ。今日はもう手伝いはなしだからね!」



チッと舌打ちをされて,更に見上げると。



「わァってるよ」



わしゃわしゃと頭を撫でられる。



変な辰馬くん。

しかも,絶妙に長い。



「ぼさぼさになる~っ。やめてよ,山宮くん戻ってくるんだからっ」



こんなぼさぼさ頭,絶対に見られたくない……っ。



「ま,お前はそうだよな……」



次なる文句を絶妙に遮って,唐突な言葉が下ろされた。



「そう?」

「昔から器用なのか不器用なのか意味不明なことばっかで,そのくせいつも目の前の最良を選ばない」

「なに?」



微かに伝わる不機嫌に,なんとなく貶されているような気がした。
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