また風に抱きしめられるまで、何時までもここでずっと待っている

ともだち

 白くて大きな校門。近代的な雰囲気を持つ校舎。やっぱり名門校は違うなー。うちのボロ校舎とは大違い。

 私はいま、学校が終わって、校門の前で雨宮さんを待っていた。

 待ち合わせって、初めてだな。昔から、親しい友達なんて、いなかったから。来なかったらどうしよう。私の顔、忘れてたらどうしよう。

 どうしようどうしよう。

 待ち合わせって、こんなに不安になるものなんだ。初めての感覚だ。てか、なんで私は彼が来ないことを心配しているんだ?

 別に来なくてもいいだろうに。きっと、この不安は私の自殺が世間に広まらないことに対する不安だ。決して彼への不安ではない。

 身体がチクチクする。目線の矢だな。俯いていても、何となくわかった。矢でそのままグリグリえぐられるような感覚。

 落ち着かない。そわそわと手をいじりながら待っていると、バタバタと走ってくる音がした。

「あ、いたいた。波澄さーん!」

 すぐわかった。このまあるい声、雨宮さんだな。雨宮さんの大きな声に、周りの人がぎょっとしながらこちらを見た。

「ちょ、声、声大きすぎて、恥ずかしいです」

「ごめんごめん。波澄さんが来てくれて、嬉しすぎて、それでつい…」

 えへへっと照れながら、満面の笑みを浮かべている。子犬みたいな人だなあ。

「ちょっと凪!あんたいきなり走り出してどうしたのよ」

 雨宮さんの後ろから、ショートカットで長身の女の子が追いかけてきた。すごく、かわいい。

 なんというか、おしとやかなかわいさというよりかは、活発で、面倒見の良さそうな子だ。

 目は丸くてパッチリ。やわらかそうな髪の毛は、くせっ毛なのか、少しはねている。

 雨宮さんの隣にいると、とってもお似合いなカップルに見える。雨宮さんの彼女だろうか。いや、でも彼は私に『一目惚れした』って言ってたし…。

 悶々と1人で考え込んでいると、その女の子が私に気づいた。

「あれ、誰この子。凪の友達?」

「そうそう!俺の友達…って段階ではないか。んー、知り合い、かな」

「へぇ〜。あたしは椎名《しいな》 仁千夏《にちか》。よろしくね!」


 人懐っこい人なんだろうな。なんか後ろにひまわりが見えてきた。

「波澄ふう、です。よろしくお願いします」

「波澄さんは何歳なの?あたし17歳。高2」

「私も同じです」

 同じ歳の子だったんだ。なんかすごく大人びているな。

「えっ、波澄さん僕と同い年?うれしいな!じゃあ、僕のこと凪って呼んでよ。それとタメ口で!」

「あ、凪だけずるい!私にもタメ口でしゃべって!それと、私のことも二千夏って呼んで」

「じゃあ二千夏さ、えと、二千夏、凪、よろしく」

「じゃあ私たち、もう友達だね!」

 2人の顔がぱあっと嬉しそうにほころんだ。

 友達なんて、何年ぶりだろ。どうせいつか離れるっていうのに、なんでそんなに大切なものを作りたがるのだろう。

「あ、僕、教室に忘れ物しちゃった。ちょっと取ってくるから、二人ともここで待ってて!」

 そう私たちに言うと、凪は走ってった。

「めずらしいな、凪が忘れ物することなんて、今までめったになかったんだけどな」

「あの、二千夏。二千夏って、凪の彼女なの?」

 すると、二千夏は顔を真っ赤にして、そんな訳ないじゃん!とぶんぶん首を横に振った。わかりやすいなあ。

「凪とはただの幼なじみだよ。家が隣で、小さい頃からいつも一緒なの。凪はすごいんだよ。勉強がすごくできて、テストでは毎回1位。スポーツ万能で、サッカー部ではキャプテンで、ピアノも弾けて、2年生なのに生徒会長までやってるの。そのうえみんなに優しいから、他学年の人たちも凪のことを信頼しているんだ。先生や凪の両親も、凪にすごく期待しているんだよ」

 二千夏は、目の前の花壇に植えてある紫色のパンジーを、ほうっとした視線で見つめた。

「そういうふうこそ、どうやって凪と出会ったの?」

「転んだときに、助けてもらったの」

 ここで本当のことを言うべきではないと思った。二千夏の話からするに、凪はthe・優等生という感じなんだろう。そんな人が気味の悪い女子と心中するなんて話が飛び回ったら、彼の地位が危うくなる。それだけ、人間は見てもないことを聞いただけで信じるのだから。

「そうなんだ。確かに、あいつは困っている人を助けちゃうやつだからな〜」

 困っている人、か。

 少し変な気持ちになったけど、それは凪がこちらに向かって放つ、おーい!という大きな声によって、かき消されてしまった。
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