また風に抱きしめられるまで、何時までもここでずっと待っている
笑う
………………………私はなぜ今、恋だの友情だので青春を謳歌している高校生たちが来るようなカフェにいるんだろうか。
こうなってしまったのは、二千夏と凪のせいだ。
凪が忘れ物を取ってきた後、二千夏が「友達になったんだから、カフェ行こ!カフェ!」と言い出した。
それに便乗するように凪も賛成するものだから、そそくさと帰ろうとしたところを、半ば強引に連れてこられてしまった。
もっと早く帰ればよかった。とはいえ、来たからにはなにか頼まないと、お店の迷惑になってしまう。
私はぶどうパフェとマシュマロがのったココア、二千夏は最近流行っているマリトッツォとダージリン、凪はみかんが丸ごと入ったフルーツサンドとブラックコーヒーだった。値段が少し高かったけど、バイトで稼いでいるし、普段あまり使うことがないから、特に問題はなかった。
「へえー、ふうって桜ヶ丘高校だったんだ。私もよく駅でその制服の子見るから、どこかで見かけたなーって思ったんだよね」
「桜ヶ丘って、たしか花がいっぱいあるよね。えーっと、なんだったっけ。どんな花なのかは頭の中でわかってるんだけど…」
「花って、エリカのことです……だよね?」
やっぱり、急にタメ語は難しいな。どうしても敬語になってしまう。
「たぶんそれ!2月から4月くらいに、学校の前にいっぱい咲いてるよね」
「私、花の名前とか高校の名前知ったとき、桜ヶ丘なんだから、桜植えればいいのに!って、心の中でツッコミ入れちゃったよ。でも、エリカが咲いてる時期にそのすぐ前の通りを歩くの、すっごい楽しみにしてるんだよね。小さいピンクの花がいっぱい集まっていて、風が吹くとふわふわって揺れるの。まるで妖精の集まりみたいだよ。ってどしたの、ふう。そんなにぽけーっとした顔して」
「いや、そんな風に考えたことなかったから。どうせ散っちゃうくらいなら、咲かなければいいって、思ってたから」
花は、たった少しの間咲くために、長い時間を無駄にしてる。そして、綺麗な姿を見せた後には、なんの色もない、無様な姿を晒すことになる。ずっと綺麗な姿が続かないのなら、私は咲かなければいいと思っていた。
そんな私の心を読んだかのように、凪が口を開いた。
「うーん、たしかに散ったあとの花を見ると、僕も、可哀想だな、何もない姿を見せるなんて、僕なら恥ずかしいだろうな、って思ったことがあった。でもさ、今は、花が咲いているときだけが美しいんじゃないと思うんだ。そりゃ、花が咲いているときは、気持ちも明るくなるし、色んな色で埋めつくされて、周りは幸せになると思う。けど、その過程も、僕は美しいと思う。周りを笑顔にするために、開花している時間よりも長い時間準備しているんだ。それに、散るときがあるからこそ、花の儚さとか、そういうのが引き立つんじゃないかな」
窓からの光が、彼の薄茶の髪の毛を、暖かく指していた。
「2人とも、すごいね」
凪と二千夏が、何が?というように首を傾げた。
2人は、ガラスのように心が澄みきっている。汚れなんて何も知らないような、そんな人たち。私なんかが、触れてはいけないんじゃないかと思った。ガラスは美しいけれど、脆くて割れやすいから。
そんなことを考えていたら、二千夏が突然、何かを思い出したようにあっと声を上げた。
「私、ずっと聞こうと思ってて忘れてた!」
「な、何を聞こうと思ったの?」
二千夏がいきなり大きな声を出すものだから、危うくブドウをスカートの上に落っことしてしまうところだった。
「凪!」
「は、はい!?」
「さっきあんた、何忘れたのよ!」
「へ?そ、そんなこと?けっこう重要なことかと思って、僕身構えちゃったよ」
「だって、あんたが最後忘れ物したときなんて、年少の遠足で、弁当忘れて大泣きしていたとき以来じゃない」
「え、そうだっけ。それより、そんな恥ずかしいこと、ふうの前で言わないでよ。記憶力バケモノじゃん」
「あんたが久々に忘れ物するから、脳みそが高齢化したんじゃないかって、心配してあげたのよ」
「ふ、ふふっ、あははははっ」
2人が豆鉄砲を食らったような顔をして、こちらを見た。
「な、何、2人とも、どうしたの?私の顔に、なにか付いてる?」
1拍おいて、2人の顔がみるみる満面の笑みへと変わっていった。
「「ふ、ふうが笑ったー!」」
「そんな大袈裟な。私だって、ちゃんと笑うときは笑うよ」
「だってだって、今まで一度も僕たちといるとき笑ってなかったもん!まあ、遊んだのは今日が初めてだけどさ!」
「そうだよ!ふう、今までずっと笑ってきませんでしたって顔、してたんだもん!」
たしかに、最後に笑ったのは、もっと小さいときだったけ。
「二千夏たちの夫婦漫才みたいなの見てたら、おかしくなっちゃってさ。それで、なんか笑っちゃった」
そっか、笑うって、こんなに暖かいことだったんだ。これからいっぱい笑うことが出来たら、自殺までのカウントダウン中は、この人たちといられる資格が、もらえるのかな。
こうなってしまったのは、二千夏と凪のせいだ。
凪が忘れ物を取ってきた後、二千夏が「友達になったんだから、カフェ行こ!カフェ!」と言い出した。
それに便乗するように凪も賛成するものだから、そそくさと帰ろうとしたところを、半ば強引に連れてこられてしまった。
もっと早く帰ればよかった。とはいえ、来たからにはなにか頼まないと、お店の迷惑になってしまう。
私はぶどうパフェとマシュマロがのったココア、二千夏は最近流行っているマリトッツォとダージリン、凪はみかんが丸ごと入ったフルーツサンドとブラックコーヒーだった。値段が少し高かったけど、バイトで稼いでいるし、普段あまり使うことがないから、特に問題はなかった。
「へえー、ふうって桜ヶ丘高校だったんだ。私もよく駅でその制服の子見るから、どこかで見かけたなーって思ったんだよね」
「桜ヶ丘って、たしか花がいっぱいあるよね。えーっと、なんだったっけ。どんな花なのかは頭の中でわかってるんだけど…」
「花って、エリカのことです……だよね?」
やっぱり、急にタメ語は難しいな。どうしても敬語になってしまう。
「たぶんそれ!2月から4月くらいに、学校の前にいっぱい咲いてるよね」
「私、花の名前とか高校の名前知ったとき、桜ヶ丘なんだから、桜植えればいいのに!って、心の中でツッコミ入れちゃったよ。でも、エリカが咲いてる時期にそのすぐ前の通りを歩くの、すっごい楽しみにしてるんだよね。小さいピンクの花がいっぱい集まっていて、風が吹くとふわふわって揺れるの。まるで妖精の集まりみたいだよ。ってどしたの、ふう。そんなにぽけーっとした顔して」
「いや、そんな風に考えたことなかったから。どうせ散っちゃうくらいなら、咲かなければいいって、思ってたから」
花は、たった少しの間咲くために、長い時間を無駄にしてる。そして、綺麗な姿を見せた後には、なんの色もない、無様な姿を晒すことになる。ずっと綺麗な姿が続かないのなら、私は咲かなければいいと思っていた。
そんな私の心を読んだかのように、凪が口を開いた。
「うーん、たしかに散ったあとの花を見ると、僕も、可哀想だな、何もない姿を見せるなんて、僕なら恥ずかしいだろうな、って思ったことがあった。でもさ、今は、花が咲いているときだけが美しいんじゃないと思うんだ。そりゃ、花が咲いているときは、気持ちも明るくなるし、色んな色で埋めつくされて、周りは幸せになると思う。けど、その過程も、僕は美しいと思う。周りを笑顔にするために、開花している時間よりも長い時間準備しているんだ。それに、散るときがあるからこそ、花の儚さとか、そういうのが引き立つんじゃないかな」
窓からの光が、彼の薄茶の髪の毛を、暖かく指していた。
「2人とも、すごいね」
凪と二千夏が、何が?というように首を傾げた。
2人は、ガラスのように心が澄みきっている。汚れなんて何も知らないような、そんな人たち。私なんかが、触れてはいけないんじゃないかと思った。ガラスは美しいけれど、脆くて割れやすいから。
そんなことを考えていたら、二千夏が突然、何かを思い出したようにあっと声を上げた。
「私、ずっと聞こうと思ってて忘れてた!」
「な、何を聞こうと思ったの?」
二千夏がいきなり大きな声を出すものだから、危うくブドウをスカートの上に落っことしてしまうところだった。
「凪!」
「は、はい!?」
「さっきあんた、何忘れたのよ!」
「へ?そ、そんなこと?けっこう重要なことかと思って、僕身構えちゃったよ」
「だって、あんたが最後忘れ物したときなんて、年少の遠足で、弁当忘れて大泣きしていたとき以来じゃない」
「え、そうだっけ。それより、そんな恥ずかしいこと、ふうの前で言わないでよ。記憶力バケモノじゃん」
「あんたが久々に忘れ物するから、脳みそが高齢化したんじゃないかって、心配してあげたのよ」
「ふ、ふふっ、あははははっ」
2人が豆鉄砲を食らったような顔をして、こちらを見た。
「な、何、2人とも、どうしたの?私の顔に、なにか付いてる?」
1拍おいて、2人の顔がみるみる満面の笑みへと変わっていった。
「「ふ、ふうが笑ったー!」」
「そんな大袈裟な。私だって、ちゃんと笑うときは笑うよ」
「だってだって、今まで一度も僕たちといるとき笑ってなかったもん!まあ、遊んだのは今日が初めてだけどさ!」
「そうだよ!ふう、今までずっと笑ってきませんでしたって顔、してたんだもん!」
たしかに、最後に笑ったのは、もっと小さいときだったけ。
「二千夏たちの夫婦漫才みたいなの見てたら、おかしくなっちゃってさ。それで、なんか笑っちゃった」
そっか、笑うって、こんなに暖かいことだったんだ。これからいっぱい笑うことが出来たら、自殺までのカウントダウン中は、この人たちといられる資格が、もらえるのかな。