チョコにありったけの祈りを込めて
 その後、私たちはお酒を飲みながらお互いの職場の話など近況を報告しあい、キリの良いところで店を出た。

 私が来店したときよりも外の気温が下がっていて、時折吹く風が頬に当たると痛いくらいだ。
 寒くて私はぐるぐると巻いたマフラーに顔を半分うずめた。

 このあと、「じゃあね」と言葉をかけてバイバイしたら、爽来ともう会うこともないのだろうか。
 少なくとも私が気持ちにケリをつけて落ち着くまでは、爽来の顔は見られないだろうな。
 それには、何年かかるかわからないけれど。


「月が……綺麗だな」


 少し前を歩いていた爽来が、急に振り返ってそう言った。
 うつむいていた私は夜空など見ていなくて、彼の言葉で自然と顔を上に向ける。


「……そう? 三日月だけど?」


 綺麗だなんて言うから、てっきり満月なのだと私は大いに勘違いをしたが、見えたのは薄い上弦の月だった。
 その上、ぼんやりとした雲までかかっているではないか。


「“月が綺麗ですね”の意味、知らないか? 有名な文豪の先生の言葉らしい」

「あ……それは知ってる」

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