チョコにありったけの祈りを込めて
 本当は、高三のバレンタインデーに告白するつもりだった。
 幸い入試は終わっていたし、うまくいけば春からは恋人同士で同じ大学に通えると……そんな夢まで思い描いていた。

 爽来は容姿が整っていてカッコいいからモテる。なので、私と同じように爽来に恋心を抱く子がほかにいないわけがない。
 私はそのことが頭からすっかり抜け落ちていた。
 というより、私は特別な存在でもなんでもなくて、現実は大勢のうちのひとりにすぎなかったのだ。


『相田くんはセクシーで綺麗系の子がタイプらしいよ』


 バレンタインデーの一週間前、爽来に気がある子たちがそんな噂話をしていて、それを偶然耳にしてしまう。
 私はそういった大人びたタイプとは程遠く、かといって、かわいくもない。

 高校生の私がお小遣いで買える範囲のプチプラのコスメを買い、動画を参考にしながらメイクを頑張ってみたけれど、所詮は付け焼き刃だ。すぐに上達などできない。
 鏡の中の自分を見て、もっと綺麗な顔だちならよかったのに、と落ち込んだ日のことを今でも覚えている。


 たとえ私が彼の好みのタイプからかけ離れていたとしても、チョコレートだけは渡したいと思った。

 爽来はきっとたくさんチョコをもらうだろう。すべて受け取るのなら、一気に全部食べるのは無理な量を。
 日を分けて食すとすれば、どれを誰からもらったのかわからなくなりそうだ。

 私が贈ったチョコが、その他大勢の中に紛れてしまうのが嫌で。
 なにか差別化できる方法を考えたとき、“手作りチョコ”しか思い浮かばなかった。
 私のほかにも手作りする子はいるかもしれないが、私が作ったものは“唯一無二”だ。それで少しでも爽来の記憶に残れば本望だった。

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