チョコにありったけの祈りを込めて
 材料を買いに行くと、レシピも付いていてすべてがセットになっている“手作りチョコキット”が売られていた。
 それならば失敗はなさそうだけれど、私はそのコーナーを離れ、ひとつずつ別々に材料を選んだ。

 作るのは、ザクザクとした食感の“チョコクランチ”にしようと決めていた。
 ラッピングも大袈裟すぎない程度にオシャレな感じにしたい。

 人生で初めて作った手作りチョコは、思いのほかうまくいった。

 バレンタイン当日の朝、学校で予想以上に爽来の周りに女の子が群がっているのを目にし、私はその時点で尻込みする気持ちが生まれた。
 爽来はこんなにも人気者だったのか、と。

 みんなかわいい。私があの中に入ったところで、(かす)むだけだ。
 そんな考えが浮かんできて、勇気を出せなくなってしまった。


「ずいぶんたくさんもらったね」


 放課後、教室で鞄の中にチョコをぎゅうぎゅう詰めにしている爽来を目にした私は、気がつけばそう話しかけていた。


「基本的には断ったんだけどな。勝手に机の中に入れられてたりして……。まぁ、チョコに罪はないから持って帰ろうかと」


 もしかしたら、爽来はチョコをもらったうちの誰かと付き合うのかな。気になったけれど、それは怖くて聞けなかった。


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