チョコにありったけの祈りを込めて
「衣咲は? 俺にくれないの?」


 チョコなら鞄に山のように入っているくせに。
 まだ欲しいのかと突っ込みたくなったが、考えてみれば私にとっては渡すチャンスだ。

 私は自分の鞄から、ていねいにラッピングしたチョコを取り出して、そっけなく爽来に渡した。


「え、手作り?」

「うん。えっと……仲の良い友達みんなに配ったの。友チョコ!」


 なぜ咄嗟にそんな嘘を口にしたのか、自分でも驚きだった。
 朝の時点で心が折れたとか、今この場にほかのクラスメイトもいるから告白する状況にないとか、思い返せば理由はそれなりにあったのだけれど。
 とにかく、爽来だけのためのチョコではないのだと言い訳をしながら渡してしまった。


「ありがと。衣咲が作ったチョコ、うまそうだな」


 その言葉だけで十分だ。私が思いを込めて作ったチョコを、爽来が食べてくれるのなら。


 高校を卒業して大学生になると、私はますます爽来を意識するようになった。
 私は全然成長しないままだったけれど、爽来は高校のころよりもさらに垢ぬけてカッコよくなり、私の中で好きな気持ちが加算されていった。

 大学でも彼は当然のごとくモテモテだった。
 社会人になった今も同僚の女性に大人気だと思うが、私とはずっと友人の関係が続き、今に至っている。

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