総長、私のリボンほどいて。🎀

「分かった」
 私は電話に出て、右耳にスマホを当てる。

「も、もしもし」

『ありす、無事か?』

「うん、今保健室にいる」

『怪我したのか!?』

「ううん、ちょっと疲れただけ」

『迎えに行く』

「大丈夫。今から電車で家まで帰るね」

『分かった。気をつけて帰って来いよ』

 電話が切れた。

「…星野(ほしの)、なんで泣いてんの?」

「まだ、帰りたくない」
 私はセーラー服の上から自分の胸に手を当てる。

「ここのリボン、触られた…」

 月沢(つきさわ)くんが両目を見開く。

 ――――金髪なのは俺だけが知ってればいいだろ?
 ――――登校する時は必ず黒のウィッグ被ること、いいな?
 氷雅(ひょうが)お兄ちゃんの言葉が脳裏を()ぎる。

 約束、したのに。
 破るなんて許されないのに。

 月沢(つきさわ)くんが、
 “暴走族有栖(ありす)の総長”かもしれないのに、

 今日だけは許して。

 私はぎゅっと布団を掴み、約束を完全に破る覚悟の目で見つめる。
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