sweets 〜 焼き菓子が結ぶ恋物語 〜
メモの住所からいくと、かなり近くまで来ているはずなのに、場所が分からない。
店じゃないし、目に付くような看板を掲げているわけでも無さそうだから仕方がない。少し待ってみるか・・・。
路肩に車を寄せてエンジンを止め、周りを見渡してみたが、それっぽい人影もない。
「どこなんだろう・・・」
助手席に置いたバッグから、彼女の写真を取り出した。
これが届いた時、俺はパリにいてただ写真をながめているだけだった。
それが今はもう、声の届く距離にまで近付いているはずなのに、なかなかたどり着くことができない。
「何やってんだろうな、俺」
自分で自分に苦笑した。
その時だ。
スーッと、小型車が横を通った。
あ!
車を運転しているのは彼女だ。
多分、間違いない。
数メートル先の路肩に止まり、エンジン音が止まった。
降りてきたのは、あの写真と同じ格好をした・・・彼女だった。
「やっと見つけた・・・」
空になったコンテナを車から下ろして、倉庫のドアから入って行く。
それを二度ほど繰り返した後、車を倉庫脇の駐車場に停めた。
駐車場から倉庫に入る時、何となく彼女がこちらを見ている気がして、思わず頭を伏せた。
見つかったか!?
しばらくして頭を上げると、もう、彼女はいなかった。
ふぅーっと、深く息を吐く。
少し、痩せただろうか。
母親に聞いたところでは、フリーランスで全て自分でやっているらしく、お菓子作り以外のところで苦労しているのかもしれない。
うちは兄貴が公認会計士だから、両親の経営面をサポートしてくれていて、親父のパティスリーも兄貴が経営を継ぐことになっていた。
そう考えると、俺が彼女にしてやれることなんて何も無いのかもしれない。
そばにいて、絶対に離さないと意気込んでみても、これといって何も無い俺と一緒にいたいと思うだろうか。
「ただいま・・・」
「どうだった? 二葉ちゃんに会えた?」
「会うことは無かったけど、厨房の前で見かけたよ」
「声、掛けなかったの?」
「・・・掛けようが無かった。そもそも彼女は俺のこと知らないし、俺の説明のために、昔のこと全部話すわけにもいかないし」
「それはそうだけど・・・」
明日も、同じかもしれない。
施設に納品に来る彼女に、掛ける言葉なんてあるだろうか。
もしかしたらあの時と同じように、離れたところから見るだけに終わりそうだ。
「明日さ、俺が息子だってこと黙ってて」
「え?」
「息子だって知ったら、変に気を使うだろ」
「そう・・・かもしれないわね。でもそれでいいの?」
「何が?」
「二葉ちゃんのこと、諦めるの?」
「分からないよ。でも、さっき改めて思った。俺、彼女にしてやれること、何も無いんだなって」
「どういうこと?」
口にするのが苦しかった。
言葉にしてしまったら、自分の無力さを再認識するだけだ。
『いつかまた彼女に出会うことができたら。
絶対に、抱き締めて離さない』
そう誓ったものの。
抱き締めるどころか、近づくことさえできていない。
あの時から、ちょうど2年が過ぎていた。
店じゃないし、目に付くような看板を掲げているわけでも無さそうだから仕方がない。少し待ってみるか・・・。
路肩に車を寄せてエンジンを止め、周りを見渡してみたが、それっぽい人影もない。
「どこなんだろう・・・」
助手席に置いたバッグから、彼女の写真を取り出した。
これが届いた時、俺はパリにいてただ写真をながめているだけだった。
それが今はもう、声の届く距離にまで近付いているはずなのに、なかなかたどり着くことができない。
「何やってんだろうな、俺」
自分で自分に苦笑した。
その時だ。
スーッと、小型車が横を通った。
あ!
車を運転しているのは彼女だ。
多分、間違いない。
数メートル先の路肩に止まり、エンジン音が止まった。
降りてきたのは、あの写真と同じ格好をした・・・彼女だった。
「やっと見つけた・・・」
空になったコンテナを車から下ろして、倉庫のドアから入って行く。
それを二度ほど繰り返した後、車を倉庫脇の駐車場に停めた。
駐車場から倉庫に入る時、何となく彼女がこちらを見ている気がして、思わず頭を伏せた。
見つかったか!?
しばらくして頭を上げると、もう、彼女はいなかった。
ふぅーっと、深く息を吐く。
少し、痩せただろうか。
母親に聞いたところでは、フリーランスで全て自分でやっているらしく、お菓子作り以外のところで苦労しているのかもしれない。
うちは兄貴が公認会計士だから、両親の経営面をサポートしてくれていて、親父のパティスリーも兄貴が経営を継ぐことになっていた。
そう考えると、俺が彼女にしてやれることなんて何も無いのかもしれない。
そばにいて、絶対に離さないと意気込んでみても、これといって何も無い俺と一緒にいたいと思うだろうか。
「ただいま・・・」
「どうだった? 二葉ちゃんに会えた?」
「会うことは無かったけど、厨房の前で見かけたよ」
「声、掛けなかったの?」
「・・・掛けようが無かった。そもそも彼女は俺のこと知らないし、俺の説明のために、昔のこと全部話すわけにもいかないし」
「それはそうだけど・・・」
明日も、同じかもしれない。
施設に納品に来る彼女に、掛ける言葉なんてあるだろうか。
もしかしたらあの時と同じように、離れたところから見るだけに終わりそうだ。
「明日さ、俺が息子だってこと黙ってて」
「え?」
「息子だって知ったら、変に気を使うだろ」
「そう・・・かもしれないわね。でもそれでいいの?」
「何が?」
「二葉ちゃんのこと、諦めるの?」
「分からないよ。でも、さっき改めて思った。俺、彼女にしてやれること、何も無いんだなって」
「どういうこと?」
口にするのが苦しかった。
言葉にしてしまったら、自分の無力さを再認識するだけだ。
『いつかまた彼女に出会うことができたら。
絶対に、抱き締めて離さない』
そう誓ったものの。
抱き締めるどころか、近づくことさえできていない。
あの時から、ちょうど2年が過ぎていた。