sweets 〜 焼き菓子が結ぶ恋物語 〜
ああ恥ずかしい。違う意味で熱が出そう。
私の気持ちがダダ漏れしている・・・。


「なんか、また熱くなってないか?」

「だってもう、恥ずかし過ぎ・・・」

「アハハハ」

「笑わないで!」

「二葉」

「ん?」

「もう一回・・・」

「何を?」

「気持ちがあふれたら、どうなるのか・・・って」


友哉さんが、私の両手を自分の首に回した。
もう、鼻先が触れそうな近さだ。


「友哉さん・・・さっきより近い」

「・・・ダメだな・・・もう止められないけど、いいか?」


私はうなずいて、目を閉じた。




頬に何かが触れた気がして、目を開けた。


「二葉」

「あ・・・おはよう」

「そろそろ起きるか?」


ベッドサイドに置かれた時計を見ると、もう8時を過ぎていた。

ん? 時計の横に何か・・・


「あ、それは!」


友哉さんがあわてて手を伸ばしたけれど、私の方がほんの少しだけ早かった。


「え? これって・・・」


写真・・・だ。それも、私が写っている。


「バレたか」


そう言って、友哉さんは私から写真を取り上げた。


「パリから一緒に帰って来た。仕事中、ずっとポケットに入れてたから少し汚れたかな・・・」

「パリ? 仕事中?」

「俺が母さんに二葉を探してもらってたって話、したろ?」

「うん」

「見つけた・・・って、この写真送ってくれて」

「すぐには日本に帰れなかったから、毎日ずっとこれ見てた」


横からのぞくと、写真の角は少し折れて、粉が張り付いているところもあった。


「ほんとに一緒にいたんだ・・・」

「何なら、いまふたりとも裸の写真撮って、それ持ってパリに帰ってもいいけど?」

「やだっ。絶対やだ!」


あ、そうか・・・。


「友哉さん、パリに帰っちゃうんだね・・・」


やっと思いが通じたのに。


「寂しいか?」


私の髪にスルスルと指を通しながら聞いてきた。


「寂しいよ・・・」


思わず本音が出た。じわっと涙が浮かぶ。


「泣くなよ・・・二葉」


友哉さんに抱き寄せられた。


「明後日」

「え?」

「明後日、二葉も・・・一緒に来るか?」

「でも・・・火傷の治療が・・・」

「パリにだって医者はいる。俺が連れて行くから」

「お菓子の注文はどうしよう・・・」

「今日と明日の分は俺が手伝う。その後の分は電話してキャンセルさせてもらおう」

「うん・・・」

「他には?」


本気なんだ。
友哉さん、本気で私をパリに連れて行こうとしている。


「俺と一緒に行く・・・だろ?」


少し涙のおさまった私の目元にキスしながら言った。


「・・・行こうかな」

「じゃ、チケット手配するから。あ、一応聞くけど、二葉パスポート持ってるよな?」

「持ってる。一度も使ったこと無いけど」


それを聞いて、友哉さんは不思議な顔をした。


「使わないのにパスポート作ったのか?」

「それは・・・」

「ま、いいか。それよりチケット・・・俺の隣の席、空いてるかな」


パリ。
いつか、行こうと思っていた場所。
いつか、訪れなければと思っていた場所。

その『いつか』のために取ったパスポート。
まさか、こんなふうに使うことになるなんて。


「二葉、チケット取れたぞ」

「うん」

「もう・・・」

「え?」

「絶対に離さないから」


友哉さんの真っ直ぐな視線に、完全にロックオン・・・された。
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