sweets 〜 焼き菓子が結ぶ恋物語 〜
友哉さんが、父を日本に呼んだ?


「あの・・・本当に・・・本当に?」


母は、もう泣いている。


「お母さん・・・泣かないで」

「だって二葉、お父さんが・・・征一郎さんが・・・」

「お母さん・・・」

「ああ、でも、私に会いに来るわけじゃないものね・・・」


そんな母の様子を見て、友哉さんが言った。


「俺が昨日の夜、星崎さんに電話をして事情を話したら、『すぐ日本に行く』って」

「友哉さん、父になんて言ったの?」

「それは・・・」


『まりこさんと娘さん、見つけましたよ』


母の治療のため、父がパリに渡った後に何度か引っ越しをした。
既に離婚した父に、それが伝わることは当然無く、父は、母と私の居場所が分からなくなってしまったのだそうだ。

それがどうして、結びついたのか・・・。

父は、お店で事務作業をするデスクの脇に、『MARIKO』とペンで名前を書き込んだ写真を貼っていたらしい。
友哉さんは何度かその写真を見掛けて、ある時父に、誰なのかと尋ねたそうだ。


「俺の奥さん。もうどこにいるのかも分からないけどね。身体が弱くて、でもすごく優しい人で、何も言わずに俺をパリに送り出してくれたんだ」


と、懐かしむように言ったと。


「可愛い娘もいてね・・・でも写真が無くて・・・名前は『ふたば』。ふたりとも、今ごろどうしてるんだろうなぁ」


遠い目で話す父が印象に残っていたと、友哉さんは教えてくれた。

そして、私が昨晩口にした父の名前と、友哉さんが覚えていた父の背景がひとつに繋がり、すぐに父に電話を掛けたのだと言った。

昨日の夜、外に出て行ったのは父に電話をするためだったんだ・・・。


「星崎さんは、まりこさんと二葉に会うために日本に来るんです」


友哉さんの言葉を聞いて、母と私が声をあげて号泣したのは、言うまでもない。
それを見ていた友哉さんは、困るどころか、なんだかとても嬉しそうにしていた。


「そっか、だからパリ行きはキャンセルになったんだね」

「そういうこと」

「友哉さん・・・二葉のことも、征一郎さんのことも、本当にありがとう」


突然のことでかなり驚いた母は、疲れたから眠りたいと言って寝室に入った。
寝入ったところを見届けてからリビングに戻ると、どこかに電話をしていたようだった。


「友哉さん?」

「あ、お母さん寝た?」

「うん。興奮冷めやらぬ・・・って感じだったけど」

「そうか、良かった」

「どこかに電話?」

「明日、車椅子のまま乗れるレンタカーを借りようと思って、予約したところだ」

「それって・・・」

「お母さん、羽田に連れて行くだろ?」


もう、言葉も無い。


「あー、また泣く〜」

「だって・・・」

「星崎さんの前では、あんまり泣くなよ」

「え? どうして?」

「泣かせる男に娘は任せられない・・・って思われたら困るだろ?」


え? 今の。


「友哉さん、今・・・」

「ん?」


気のせい?


「明日10時半に迎えに来るからって、お母さんに伝えておいて」

「うん、分かった」

「あー、なんか大役を果たした気分だなー」

「えー?」

「二葉、ハラ減った。何か食いに行こうぜ」


友哉さんに手を引かれて、私は家を後にした。
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