Mazzo d'amore
「お!米一粒残さず食べてるね偉い偉い!」

「いや、あの5年生の担任の翼先生やばかったから流石にあれから残さなくなったよ」

「授業覚えてる?父兄達が死んだ顔になった授業参観?」

「覚えてる覚えてる!」

私は5年生になるとしょっちゅう女子達に体を揉みしだかれたりしていた。

特に私の二の腕がぷにぷにで柔らかくて気持ち良いらしい。

「あああ!最高だわ!癖になるわ」

「ちょっ…ちょっとやめて恥ずかしいから」

後ろから抱きついて抱擁されたりもした。

「はーいみんな席につけー!」

担任の西川翼(にしかわつばさ)先生が入ってきた。

熊のように大きな体に口も髭があり、正面もまさに熊だ。

小学校に入学して以来私はずっと翼くんが好きでようやく念願の担任となって喜んだ。

ただ、男子の一部は翼先生が担任となりビビっていた。

ウチの母から聞いたのだが西川翼先生は元ヤンキー。

それもバリバリの暴走族。

天成(てんせい)初代総長。

先生は中学校同級生4人と高校入学後チームを立ち上げた。

天成の自然の力で出来上がってるものの意味に負けないよう4人で色々なチームと戦った。

数々の伝説を残した先生達のその伝説は今も地元のヤンキー達の間で語り継がれてるほど。

先生は学生時代は他県なのにも関わらず東京に来てまで話しが伝わるから相当な事なんだと思う。

おかげで生徒達だけでなく授業参観に来る男性の保護者も翼先生の授業の時は凄い静かに参観する。

授業参観が始まる前の廊下には翼先生に一言挨拶しようと悪そうな見た目の保護者が並んでいた。

「この度は恐れ多くも参観させていただきますっ!」

「気合い入れて参観させていただきますっ!」

「やめろやめろそんなんしたら周りがビビるから」

ニコニコして喋る翼先生にホッとする悪そうな見た目の保護者。

「そうは言っても迷惑かけんなよ」

ポンっと笑顔で肩を叩くも目は笑ってなかった。

何人かのお父さんは魂が抜けたような顔をしてた。

この日の授業は道徳だった。

(元ヤンが道徳の授業してる…)

(え、説得力…ないんじゃ?)

保護者はみんなそう思ったが誰も口にしなかった。

授業は人の気持ちを考える授業だった。
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