Mazzo d'amore
「嫌かもしれないけど、京香ちゃんの為に素直に受け取った方がいいで」

「わかっ……てんだけどなぁ、俺だって」

兄は頭をくしゃくしゃ手でかきむしりながら言った。

そして、お金を失った父は翌日帰って来ると家の隅々までお金を探した。

「おい!昨日渡した金は?」

「ないよ」

「ふざけんな!もう全部使ったってのか?」

「ああ」

「舐めやがって」

兄はよく父に殴られていた。

私にこそ手は出して来なかったが私はいつも震えていた。

「大丈夫?」

「大丈夫大丈夫!お兄ちゃん強いから。ほらこのお金で京香の靴明日買いに行こう。もうボロボロだからさ」

兄はよく私に無理して笑っていた。

だから私も無理して笑っていた。

「ここ進研ゼミで習った所だ!」

ある日、宿題をしながら声を出したらみんな笑った。

「それ実際に口に出すやつ居たんだ!」

「京香ちゃん、やってて良かった公文式も次に宿題やる時声に出してみて」

お金はないけど、少しでもみんなに楽しんでもらおうと一度は口にしてみたいセリフごっこをよくみんなに披露していた。

夏休みになると剛くんの家や翼くんの家にも沢山お泊まりした。

学校がないと給食がないから助かった。

特に剛くんのお母さんは児童施設出身で母を知らずに育ったみたいで私の事を幼い頃の自分と照らし合わせ、もの凄い可愛がってくれた。

「娘欲しかったから京香ちゃんが娘みたいで嬉しい!好きなだけウチに居て良いからね。なんならウチの娘になって良いからね」

「ウチの娘になるわけないだろ何言ってんだよババア」

ゴッ

「いったぁ!」

「おばさん。すみません、色々お世話になって」

「良いのよ、健太君も京香ちゃんも子供なんだからいっぱい甘えてね」

「……なんでババア泣いてんの?」

「ババア言うな!健太、やってしまいなさい!」

「了解ですっ!」

「あははは!健太!くすぐるなやめろー」

「私は京香ちゃんもくすぐるわよー」

そして剛くんのお母さんは私を見てよく泣いていた。

「お母さんって呼んでみて!娘が欲しかったからその願い叶えて!」

「お、お母さん」

「ああもう!可愛い!」

ぎゅっと剛くんのお母さんは抱きしめてくれた。
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