Mazzo d'amore
「いやいや、こちらこそ失礼しました。けどさお姉さん可愛いし魅力的なボディしてるから言いよってくる男の人居るでしょ?」

「まあ、そう…ですね…はい」

「特にこんなお店で働いてたら危ない目に合った事とかあるんじゃないの?」

「そうですね、何度かはありましたね」

「どんな話し?聞かせてよ」

私は当時を思い返し話し出した。

高校3年生の夏。

母の葬儀も終わり、納骨も済ませ何処か抜け殻のようになっていた。

父は通夜も葬儀も一度も涙を見せる事なく済ませ凛としていた。

「なに?そんなに見つめて?そんなに俺イケメン?」

「いや、変わらず子泣き爺だなって思って…」

「ひどいっ!」

「ねぇ…聞きたいんだけどさ…」

「なに?」

「………いいや、やっぱりなんでもない…」

父の母へ対する愛情は母から生前聞いていたので本当にウチの父は強くて尊敬出来る人なんだなと改めて思った。

母がこれまで私に教えてと言うか叩き込んできた一般常識以上の教えのおかげで母を失っても我が家の歯車は止まる事なく円滑に進み問題なかった。

「まだ休んでも良かったのよ?というか辞めても良いんだよ?」

その日ガールズバーに出勤した時、翔子さんに言われた。

「いえ、出勤したくて来てるんです。初めの頃は来るのが嫌で嫌で仕方なかったのに不思議なものですね」

するとお店の扉が開く音が聞こえた。

「また来たよ」

「わあ!嬉しいありがとうございます」

何度も来てくれる常連さんだった。

歳は一回り上の30歳。独身。

私の事を可愛い可愛いといっぱい褒めてくれる優しい人。

ただ酔っぱらうと甘えてくるのが少し嫌。

(ここ、BARですよ?)

そう思うがこの人には関係ない。

「ねぇ、ぎゅっとして?」

「お触りダメなんですよ」

「えぇ!やだやだやだ!僕ちんさみちぃ!」

「僕ちんは良い子だからこれで我慢してねっ」

そう言ってギュッと手を握って悟す。

ひたすら悟す。

そして不要なエロい会話はしないようにする。

(なんで私、高三でこんな技術身に付いてんの!?)

京香イズムを受け継いだ自分の姿につくづくビックリする。

母の愛恐るべし!
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