生贄は囚われの愛を乞う~棄てられ令嬢と狼将軍~
それから十数年の時が過ぎ、レナは十八歳になっていた。
本来ならばとっくにデビュタントをすませているべき年齢ではあったが、いまだに社交界に顔出しすらしていない。
病弱な王太子が婚約者さがしの壇上に立つまでは、レナの美しさを隠しておきたいという領主の浅はかな目論見により、半ば屋敷に幽閉されるような生活を送らされていた。
だが、適齢期を過ぎてしまえばいくら美しいとはいえ王太子の相手にはなれない。
このまま王太子が婚約者探しをしないのならば、王家に次いで力のある貴族相手の政略結婚をさせられるか、あるいは。
「レナ、こんなところにいたのか。俺の部屋に来いと言ったはずだ」
「お義兄さま……」
うんざりした顔を隠そうともせず、レナは自分に話しかける義兄に視線を向けた。
義兄は、美しく成長したレナに目をつけ、あわよくば自分の妻にしたいという欲を隠そうともしていない。
父親である領主も何度もかけ合っているのを何度も聞いた。
そのせいで、養女の存在を嫌っている義母や義姉達から更に目の仇にされる事が増え、レナは頭が痛かった。
こうやって話しているところを見られたら、また酷い嫌がらせをされてしまうと、警戒しながら周りを見回す。
「おとうさまに呼ばれていたのです。次の春祝祭に出る事が決まったそうです」
「……なんだと!!」
義兄の顔色が変わる。聞かされていなかったのだろう。
領主は手間暇をかけて育てた道具レナをいくら可愛くとも息子に与えるべきか迷っていた。
その矢先、この話が出たのかもしれない。
「父上め……!!」
吐き捨てるように呟くと、義兄は踵を返し乱暴な足取りで去って行く。
その背中を冷めた気持ちで見送るレナは、相手が誰であれ自分にはなんの自由もないのだと、諦めの表情を浮かべていた。