俺様ドクターの溺愛包囲網


日々谷先生にたてをつくイコール、クビになるかもしれないというのに。けれど今更取消せない。ヒヤッとした汗が背中に伝うのを感じていると、そんな私を涼しい顔で見ているのが視界に入った。

明日から無職か。はたまたハローワーク通いをしなくてはならないのか……。そんなことを想像して、ゾッとした。

ここは謝っておくべきか。でも、そんなことしたら余計に付け上がるだけだ。それに私は何一つ悪いことをしていないんだ。自分の正義に反することはしたくない。

すると日比谷先生は何を思ったのか、大きく腰を折り、私の顔を覗き込んできた。
そして色っぽい唇を僅かに歪め言った。

「要の前で頬を赤らめていたのは、どこの誰だ」
「そ、そんなはずありません……!」
「どうだか」

それだけ言い残すと、日比谷先生は医局を出て行った。

私はパタンと閉まるドアを呆然と見つめていた。どうして要先生がでてくるのだろう。もしかしてさっきのやり取りを見られていた?

しかも、要先生の名前を口にした時、さらに不機嫌になった。兄弟仲が悪いという噂は本当なのかもしれない。遠ざかる先生の背中を見つめながら、そんなことが頭を過った。


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