俺様ドクターの溺愛包囲網
オペや学会という通常業務のほかに、跡継ぎ問題がヒートアップしていると、美和から聞かされた。
頻繁に役員室に呼ばれているのだとか。先生は私にはその話は一切しないけれど。
「また一緒にごはん食べましょうね」
「あぁ」
先生の返事に、真宙が嬉しそうに笑っている。
「あ、それとも俺がいない方がいい?」
今度はニヤニヤとした視線を向けてくる。まったく、そういうところだけは、察しがいいんだから。
「何言ってんのよ。大人をからかわないの」
「姉ちゃん超焦ってるし。ウケる」
「ほら、タクシーきたよ。さぁ帰って帰って」
「はいはい、わかりましたよ」
名残惜しそうな真宙を無理やりタクシーに乗せると、二人でタクシーが見えなくなるまで見送った。その瞬間ホッと気が抜ける。無事、平穏な日常が戻ってきた。それもこれも、俺様ドクターのお陰。今まで先生に感謝の気持ちを伝える患者さんは何人も見てきたけど、その気持ちが今すごくわかる。
「本当に、いろいろとお世話になりました。ちゃんとお礼させてくださいね」
踵を返し、すたすたと院内を歩き始めた先生の背中を追いながら声をかける。