俺様ドクターの溺愛包囲網
「お疲れ様です。これ、来週予約の患者さんの紹介状です」
いつものように外来の受付へ紹介状を持っていくと、中がざわざわしていることに気が付いた。外来の時間はとっくに過ぎている。こんな風に騒がしいことは普段ない。
いったい何があったんだろうと不思議に思っていると、一人の女性を先頭に、ぞろぞろと人が出てきた。その気迫に思わず、壁に背を預け息をひそめる。
「次は病棟に行きましょう」
女性が言うと、スーツをきた男性がこちらですと案内する。彼女は誰だろう。財界の視察? それとも保健所の人だろうか。今まで院内では見かけたことがない人だけど、こんなに用心棒をつけているんだ。きっと偉い人なのだろう。
細身でショートカットが良く似合っていて、一瞬しか見えなかったが、大きな目に、鼻筋がすっと通っていて、美人という言葉がふさわしい人だと思った。恐らく年齢は五十代後半。素敵な人だったなぁ、なんて思いながら背中を眺めていると、その女性がハンカチを落とすのが見えた。
「あの! 落としましたよ」
慌ててそれを拾い声をかけると、その女性と背後についていた男性たちが一斉に振り返り、私に視線を向けた。