俺様ドクターの溺愛包囲網
中には家族の姿もちらほらいて、やっぱり先生はどこまでも庶民派らしい。エレベーターで五階に着くと、先生の部屋はすぐ目の前だった。鍵取り出し、当たり前のように私を中へ促す。まさか先生の家に連れてこられるとは思わなかった。
とはいえ、うちじゃ真宙がいるし……。やっぱり宣言通り、絶対に逃がさないということなんだろう。覚悟を決めているつもりだけど、やっぱりちょっと不安。
「最近帰ってなかったから散らかってるけど」
中に入ると、よくある普通の間取りの部屋があらわれた。家具は黒やグレーなどのシンプルな色で統一されていて、それも先生らしいと思った。
「やっぱり先生って、庶民派ですね」
「医者はタワマンに住んでるとでも想像してたか?」
「まぁ、最初は。院長の息子だし、シェフとか常駐してそうだなぁなんて」
「とんだ幻想だ」
ちょっと呆れたように笑うと、先生は立ち尽くす私をじっと見つめてきた。
「あ、あの……おつまみでも作りましょうか?」
先生の雰囲気がちょっと変わったのを感じ、怖気づいた私はそんなことを口にする。もう逃げられないと悟っているのに、悪あがきせずにはいられない。