俺様ドクターの溺愛包囲網
早く行ってくださいと心の中で祈っていると、日比谷先生が思いがけないことを口にした。
「それ、宮永が作ってるのか?」
「そうですけど。それがどうかしたんですか?」
「いや。ちょっと懐かしかったから」
その発言にさらに目を丸くする。院長の息子として生まれた先生が、どうしてこの質素で可愛げのないお弁当を懐かしむのだろう。いったいどんな冗談?
「からかってます?」
「いや。本当のことを言ったまでだ。じゃあそれ頼むな」
素っ気なく言うと、ぽかんとする私を置いて先生は医局を出て行った。
お金や食べるものに不自由したことないはずの先生がどうしてあんなこと? ますますわからない。
やっぱりバカにしているんだろう。
「嫌な感じ」
プランターで育てたミニトマトにぐさっと箸を刺すと、思いっきりそれを頬張った。
日比谷先生に頼まれたものと、たまっていた郵便物を総務課に出すために医局を出る。毎日膨大な量の郵便物が出るこの病院は、総務課が一まとめにし、それを郵便局員さんが取りに来てくれる仕組みになっている。総務課で郵便物をお願いすると、その足で院内にあるATMに向かった。