俺様ドクターの溺愛包囲網
そのままでいいとは思うが、たまには現実から逃避して、自分を甘やかすのも悪くないと思う。
「会計、お願いします」
「はい。少々お待ちください」
店員は肩をすくめながら、レジへと向かった。宮永は諦めたように、口を尖らせ俺を見ていた。
再び車に乗り込むと、綺麗にドレスアップした宮永を隣に都市高を走る。
「こんなブランド品、初めてです」
「俺もこんな要みたいなくさい真似したの、初めて」
「でしょうね」
さっきまで不服そうだったのに、クスクスと楽しそうに笑っている。慣れないことをしてしまったが、嬉しそうな宮永の顔を見ていると、こっちまで幸せな気持ちになった。
「で、どこへ行くんですか?」
「クルージングディナー」
「え? どうしたんですか先生。先生も庶民派じゃないですか」
確かに宮永の言う通り、俺は要と違って高級志向ではない。俺の価値観は、日比谷家に来る前にすでに植え付けられていたから。
母と過ごした時間より、日比谷家で過ごした時間のほうがだんだんと長くなっていったが、価値観の上書きはできないことを、大人になって知った。