俺様ドクターの溺愛包囲網
通帳を突っ込み、講習代のお金を取り出す。携帯代と光熱費代にとっておいたが、来月まとめて支払おう。ちょっとくらい遅れたって携帯も水道も、すぐに止まりはしない。機械音とともに出てきたお金を封筒に入れ胸ポケットにしまうと、ホッとした気持ちでその場を後にした。
定時になり、キャビネットからバッグを取り出すと、急いで医局を出た。今日は近くのスーパーが安売りなのだ。このチャンスを逃してはならないと、急いで病院を後にする。
すると、玄関を出たところで誰かとぶつかった。よろける体で慌ててすみませんと謝ったが、顔を上げた瞬間、顔を傾げたくなった。
なぜならその人は、ぶつかったことに気がついているはずなのに、私のほうを見ることなく、ただひたすら病院を睨み付けるように見つめていたからだ。
その人の年齢は恐らく六十代で男性。首元には特徴的な大きなホクロがある。外来も入院患者への面会時間もとっくに終わっているのに、どうしたのだろう。
もしかして不審者? そう思うと、途端に怖くなった。けれど、ただ立っているだけの人を通報するわけにもいかない。