俺様ドクターの溺愛包囲網


張り切った様子でキッチンへと入って行った。その間リビングでぼんやりと部屋を見渡していた。
4LDKの平屋。築十五~二十年といったところだろう。結婚となれば考えないといけないことが山ほどありそうだな。

新居はどこにかまえる? 派手なことは嫌がりそうだが、やはり式だって挙げたいだろう。そんなことを考えながら彩がくるのを待っていた。

だが、待てど暮らせどこない。お茶漬けを作るだけなのに、なにをそんなに……?不思議になりキッチンを覗くと、シンクのところでじっと佇む彩の背中が見えた。しかもその背中が僅かに震えているのに気が付いて、咄嗟に彼女に手を伸ばした。

「彩?」

肩を掴みこっちを向かせれば、目には涙が浮かんでいて、それを見てぎょっとする。

「どうした?」
「先生……私」

声を震わせる彩に嫌な予感が過る。さっきまで笑っていたのに、急にどうしたっていうんだ。

「さっきは嬉しくて、気持ちが高揚してました。お酒も入ってたし……」
「だからどうしたっていうんだ」

矢継ぎ早に言うも、彩は俯き口元を結び引いている。そんな彩の肩を揺さぶる。まさか、結婚をやめるとか言い出す気か?

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