俺様ドクターの溺愛包囲網
堂々と嘘を吐く谷さんの声が聞こえる。よくもそんな嘘を。どうでもいいけど。谷さんになんてかまっている暇はない。とりあえず今日は忙しい。来月のスケジュールの提出と、財団に出す書類を片付けなくちゃいけない。それに……
「宮永」
頭の中で今日やるべきことを確認していると、日比谷先生が声を掛けてきて慌てて振り返る。
「はい、なんでしょう?」
「このリストに載ってる本、医局の図書室から借りてきてほしい」
差し出された紙切れには、小難しい本のタイトルがたくさん書いてあった。
「わかりました」
そう言って受け取ろうとしたら、谷さんに妨げられた。
「それだったら私行きます。ちょうど西棟にいく予定があるので」
私と日比谷先生の間を割って入ってくる。そしてリストを横から取ろうとしたが、先生がさっとそれを避けた。
「俺は宮永に頼んでる」
「え、でもついでですし……」
「二度も言わせるな」
先生はぴしゃりと言うと、苛立ったように医局を出て行った。
「えっと……先生、ああいう人だから。気にしないで」
なぜ私がフォローしないといけないだと思いつつ、無理やり笑顔を貼り付け彼女を見る。けれど谷さんは明らかに不機嫌そうな顔をしていて、その後も何度か声をかけたが、口を開こうとしなかった。