俺様ドクターの溺愛包囲網
そう思い立ち扉に手をかける。すると要先生が一番恐れていたことを口にした。
「昨日あれから大丈夫だった?」
「えっ!?」
動揺しすぎて、胸元に抱えていた手紙がひらひらと床に落ちた。
「えっと、あの……はい」
「そうよかった。弟くんも喜んでくれたかな?」
「と、とても」
すごく空気が重く感じる。おそるおそる振り返れば、憂いを帯びた視線と交わった。
やっぱり今の会話、日比谷先生に聞こえてしまっただろうか? いや、こんな狭い部屋なんだ。聞こえないはずがない。
どうしてこんなに焦っているんだろう。別に悪いことなんてしていないのに。その理由がわからないまま呆然と足元を見つめていると、ふと日比谷先生の香りが間近に迫ってきた。
そして落ちた手紙をスッと拾い「もういい。これは俺が出す」と冷たい声を残し、医局を出て行ってしまった。
その姿を見て、咄嗟に彼を追いかけていた。そして気がつけば広い背中に向かって叫んでいた。
「日比谷先生! あの、私……っ」
「やっぱりお前も一緒だったか」
「え?」
「腰掛は嫌いなんだよ」
寂し気につぶやいて、先生はあっという間に院内の奥へと消えてしまった。