俺様ドクターの溺愛包囲網
取り残された私は、しばらくその場で呆然と立ち尽くしていた。
あんな風に言わなくてもいいのに。それに、私は腰掛じゃない。
「これ、よろしくお願いします」
出てきた声は力がなく、自分でも驚いた。どうやらさっきの出来事が尾を引いているらしい。診療情報提供書を突き付けられた外来のクラークさんから、心配そうな目で見られていることに気づき、慌てて笑顔を作った。
「あ、す、すみません。あの、これ、来週紹介でこられる患者さんの分です」
「あ……はい。お預かりします」
ダメだダメだ。彼に感情を左右されてどうする。そもそもあの人とは分かり合えないってわかりきっていたんだ。先生の顔を振り切るように、ぶんぶんと首を振る。
「彩、何してるの?」
すると、そこに呆れたような声が届いた。見れば脳外の外来からひょっこり顔を出した美和がいた。
「どうしたの、落ち込んだ顔して。もしかしてまた日比谷jrと何かあった?」
言いながらニヤニヤと近づいてくる。
「やっぱりあの人嫌い」
「やっぱりって、ちょっと好きだったみたいな言い方ね」
「す、好きとかじゃないから! ただ、少し見直したところだったから……」