俺様ドクターの溺愛包囲網
でもそれでもいい。自分の今の気持ちを伝えたい。うだうだ考えるのはやめよう。
「あの、すみません」
するとその道中、誰かに呼び止められた。声の方をたどれば、ポロシャツにスラックス姿の男性が、私を見据え立っていた。年齢は六十代くらいで、ニコニコと優しげな雰囲気を漂わせていて、清楚な感じの人だった。
「はい、どうかされましたか?」
瞬時に仕事モードに切り替え、笑顔で対応する。
「東病棟はどちらでしょうか?」
「お見舞いですか?」
「はい。家内のお見舞いに」
「ご案内します」
手を差し出しながら、エレベーターホールへ案内する。奥さんのお見舞いか。きっと奥さんのこと、大切に想ってるんだろう。すぐにエレベーターがつき「どうぞ」と中へ促す。
だけどそこでふと違和感を抱いた。東病棟? 奥さん?閉まっていくドアを見つめながら、徐々に眉間に皺が寄っていく。
なんだかちょっと変だ。なぜなら、東病棟には小児科と小児外科、あとは新生児室しかないから。
「あの、東病棟であってますか? そこは小児の病棟……ひゃっ」
振り返り、尋ねようとしたところで突然、腰辺りに何かを突き付けられる感覚があった。