俺様ドクターの溺愛包囲網
おそるおそる振り返れば、さっきの穏やかな顔と打って変わって、険しい表情を浮かべる男性の顔があった。
こ、これはいったい……!
「脳外科の日比谷のところに連れていけ」
「ひ、日比谷先生……ですか?」
恐怖で声が震える。
「せ、先生は今日は戻りません」
咄嗟に嘘をついた。きっとこの人はよからぬことを考えている。ならば私がここで食い止めなければと思ったのだ。
「医局に行け」
「だから先生は……」
「いいからいけ!」
「は、はい……」
仕方なく言われるがまま医局がある階のボタンを押す。どうしよう。本当にこのまま医局へ行ってもいいのだろうか?そうだ、緊急ボタン。そう思い、手を動かそうとしたが、あっさりバレてしまった。
「余計なことをするな」
「すみません」
そうこうしているうちに、エレベーターは医局のある階に止まった。
「案内しろ」
背中にナイフらしきものを突き付けられたまま、しぶしぶ医局へと向かう。この人いったいどうしたんだろう。
先生の知り合いだろうか? そういえば、どこかで見たことがあるような……。そこであっ、と思った。