俺様ドクターの溺愛包囲網
「山本喜代子さんの……」
「そうです。あなたに殺された山本喜代子の夫です。思い出してもらえて光栄です」
不敵な笑みを浮かべ、徐々に近づいていく。だめ、先生逃げて。そう言いたいのに、ずっと緊張の中にいたせいか、声がうまく出せない。
「あの時、あなたは妻を助けたいと言ってくださった。妻も私もあなたを信じていました」
「力及ばず大変申し訳ございません」
「なのに、妻は死んだ。これから二人で楽しんでいこうってときに……お前のせいで人生無茶苦茶だ」
泣いているのか、嗚咽交じりに先生に向かって言う。先生も、眉根を寄せ、険しい顔をしていた。
「死んで償え」
山本さんは、持っていた小型ナイフを先生に突き出した。ひっと、体が竦む。だけど先生は表情一つ変えず、冷静だった。
「しまってください、山本さん」
「うるさい! 偉そうなことを言うな!」
「今なら見なかったことにします」
先生は説得を始めたが、山本さんは肩で息をしていて、興奮している様子だった。こういうとき人はきっと我を忘れている。何をするかわからない。先生が危ない。そう思ったのと同時に、私はすでに行動に出ていた。