俺様外科医の溺愛包囲網~嫌われていたはずが甘く迫られています~


しかも、先生も早くにお母さんを亡くしていたなんて……。

もしかして真宙を気にかけてくれるのは、昔の自分と重ねていたから? 私が作るご飯が好きなのは、お母さんの影響?

亡くなったお母さんも必死に働いて、食べ盛りの男の子を育てたんだろう。その苦労を思うと、じわりと視界が滲んだ。逆に、要先生やお母さんは、突然やってきた愛人の子供を、受け入れられたのだろうか。いろんな感情が複雑に絡み合ったに違いない。子供時代の日比谷先生や要先生のことを想像すると、胸が締め付けられる想いになった。

「あら、もしかして日比谷先生?」

交差点で信号待ちをしていると、誰かから声をかけられた。辺りを見回せば、五十代くらいの女性が、ニコニコとしながらこっちに近づいてくるところだった。

「入院中はお世話になりました。おかげさまでこの通り、元気になりました」

女性は親しげに声をかける。先生は小さく頭を下げ、ドクターの顔で口を開いた。

「鈴木さん。お元気そうで」
「先生のお陰です。難しいオペでどこの病院からも断られていたのに、先生だけが受けてくださって、こうやって命を長らえています。本当にありがとうございました」


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