俺様ドクターの溺愛包囲網
しまった。完全にテンパった。なんでこんなことを口にしたんだ、私!
「あの、すみません。余計なことを聞きました」
慌てて手振り身振りで撤回する。けれど先生は怒りだすことなく、小さくそうだな、とつぶやいた。
「まめにしてたと思う。お前みたいに、茶色いおかずばっかり作ってたよ」
頭の隅から引っ張り出すようにして言葉を紡ぐ。
「茶色だらけですみません」
「褒めてるんだ。高級な料理よりも、茶色の飯が一番だと俺は思ってる」
そう言う先生の顔は穏やかで、優しくて、胸の奥がキュンとした。そこでふと、繋がった。いつか、私のお弁当を見て懐かしいと言ったのは、そういう理由だったんだ。きっと先生もよくお弁当を作ってもらっていたんだろう。
「それによく働く人だった。幼いながらに、いつも必死な母親を心配してた」
「そう、なんですね……」
「だから過労死した」
その言葉に心臓が胃の下に、ドクっと落ちたような気がした。過労死って……。