俺様ドクターの溺愛包囲網


「学校に、母親が倒れたって連絡がきて、すぐに駆けつけたが、もうすでに冷たくなっていた。最後に何を話したのかも覚えていない。母親の遺体と対面して、一番最初に頭に浮かんだのが、人ってあっけないなぁ、だった」

中学生の子供には辛すぎる現実だ。しかも先生は他に身寄りがなかったから、きっと一人でその光景を目の当たりにしたのだろう。当時の先生を想像すると、目頭が熱くなった。

「なにお前が泣きそうになってんだよ」

膝の上で拳を握り、涙をこらえる私に、先生がおかしそうに言う。

「だ、だって……」
「もう何十年も前のことだ」

あっけらかんとした先生に、私はそれ以上何も言えなかった。先生が患者さんに優しいのはきっと、その過去がそうさせているんだろう。人の痛みや悲しみがわかるから。

お母さんの死後、日比谷家に引き取られた先生は、幸せだったのだろうか。ううん、幸せだったって言葉が聞きたい。これからは私と幸せになりませんかって、言いたい。先生の支えになりたい。

「あの、先生」

正座し、先生に膝を向ける。

「なんだ、改まって」
「あの、私……先生を幸せにしたいです」


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